サドル破損のクレーム、店側の対応は?

自転車:知識
Social Class Difference

こんにちは、自転車整備士の椿直之です。

今回の内容は、自転車店、サイクルショップで働く従業員向けの内容です。

とある自転車店に勤めているセミナーの生徒さんからいただいた質問の内容をご紹介したいと思います。

たまに、サドル裏側のバネが付いている部分の根元から割れて、パカパカしてしまっているお客さんがいます。

この状態の自転車を持ってきて、「まだ買ってから1年以内なので保証対応で交換してほしい」と言われることがあるのですが、どう対応すべきなのか、といった内容です。

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私自身も経験がある内容ですが、たしかに店側としては難易度の高い対応が求められます。

なぜなら、サドル単品としては保証書に保障内容が言及されていないからです。

タイヤやブレーキシュー等の消耗、摩耗品であれば「保証対象外です。」と明記されていますので、そのようにご案内するのが妥当です。

サドルの場合は消耗品という扱いではないため、保証に該当するかどうかは他の項目を一つ一つ当てはめてみて考える必要があります。

・保証書を持参しているかどうか

まずは保証修理を求めるお客さん側は、自転車と共に保証書を持参しなくてはなりません。

保証書には購入店の印鑑が押してあるでしょうから、それがそのお店で購入した証明になります。

なければお断り、あれば保証修理を検討します。

ただ、その時は持っていなくても、紛失していなければ、言われてから後で再度持ってこられる場合もあります。

・初回点検、定期点検は実施されているか

保証修理を受けるためには、購入後2ヶ月程度で初回点検、その後は1年おき(メーカーによって異なる)に1度、購入店で点検を受けていなければなりません。

定期点検を受けていれば、修理になる前にプロがネジの増し締めなどで解決し、故障に至るのを未然に防げるはずだからです。

今回のサドルの件でいえば、サドル直下の取り付けナットがもし緩んだ状態で使用してしまうと、サドル本体に負荷がかかりやすくなり、破損につながります。

ナットの緩みを点検によって発見できれば、破損を防げるということです。

保証書に点検項目内容や、チェックリスト、店舗押印箇所がありますので、点検を受けている車体かどうかチェックできます。

点検を受けていない場合は保証修理を断ることができるでしょう。

ただし初回点検の2ヶ月以内にそういった症状になるお客さんもいますので、上述のようなナットの緩みが見られる場合は、購入時の店側の整備に問題がある可能性もあります。

店側に不備がなさそうな場合は、次の項目を確認します。

・使用前点検でサドルが固定されているか確認

使用者自身も、自転車に乗る前に必ず確認しなければいけない項目が取扱説明書には記載されています。

そこでは自身でもサドルが固定されているかどうか確認する項目があります。

もしガタが出ているようなら使用は中止し、販売店に持ち込んでみてもらうことになっています。

お客さん自身がちゃんと確認していたかどうかを確認します。

もし本当にしっかり確認しているなら、少しガタが出た段階で販売店でネジの増し締め程度で済みます。

今までは毎日大丈夫だったのに、今回急にサドルが破損した、という場合は次の項目をチェックしてください。

・使用者の使用上の不注意によるもの、または使用に起因する部品の劣化

・手入れ及び保管場所の不備により生じた故障

だいたいの方はここに該当するかと思われます。

自転車を倒した、転んだ、事故でぶつけられた、運転者が重すぎる等の要因があるということです。

倒した、転んだ等は接客時に直接本人に「倒してしまったりしたことはありませんか?」と聞いてしまってもいいと思います。

もし本人に否定されたり、自覚がなかったとしても、車体やサドルについたキズを確認し、転倒しなければ付かないようなキズがあれば、使用上の不注意による破損です。

その時のダメージでサドルも破損していることを伝えるといいでしょう。

また経験上ケースとして多いのが、駐輪でスタンドを立てるときに、「片手をサドルに添えて持ち上げる」という動作をする人が多いです。

駐輪時だけでなくとも、大きな段差を乗り越える際に車体を持ち上げる瞬間に、どうしても手を添えやすいサドル部分を持ってしまうのです。

車体のだいたい中心に近い位置にあるので気持ちはよくわかりますが、こんなことを繰り返していては当然サドルは破損します。

店側の対応としては、「お客さん、ちょっとスタンドを立ててみてください。」と実演してもらうことをおすすめします。

サドルに手を添えて持ち上げるような動作をしていたら、使用に起因する劣化として認めていいと思います。

正しくは、リアキャリアの部分を持つか、キャリアのない車体ならシートパイプの部分を持つようにすると、車体を痛めることなく、しかも楽に持ち上げられます。

・外部的要因による故障、手入れ及び保管場所の不備により生じた故障

使用者自身による不注意が認められない場合は、第三者の介入がある可能性があります。

上述の転倒であれば、本人は本当に倒した覚えがなくても、家族の誰かが倒していた。

スーパーの駐輪場に停めておいたら、ドミノ倒しになっていたが、自分が戻ったときにはちゃんとっ立っていたので気が付かなかった。

駅前の駐輪場に停めておき、外出中に駐輪場の管理者が駐輪位置を変えるため、サドル部分を持ちあげて移動させていた。

など、本人が気が付かないところでも自転車は危険にさらされています。

また、サドルについては日常の手入れは特に必要ありませんが、保管には注意点があります。

サドルは素材が合成樹脂や合成皮革でできているため、直射日光や雨に弱いものです。

サドルだけに限った話ではありませんが、自転車全体が紫外線や水に弱い素材ですから、家の外に保管する時は自転車カバーをかけるべきです。

カバーをかけて保管をしていなければ、サドルの樹脂部分は1年以内でも劣化してヒビが入ることはおかしいことではありません。

お客さんとの話の中で、日常的な部分に問題がないかどうか探ってみましょう。

さて、ここまで保証書に記載された内容に合致するかどうか、という観点だけで保証修理すべきかどうかをお伝えしてきました。

もちろん店側の人間が保証書に記載された内容を熟知し、それを論理的に解説、案内してお客さんに自転車の使い方を学んでもらうのもひとつの仕事です。

メーカーは保証対応なんて面倒なことに巻き込まれたくはないので、なるべく保証の対象にならないように、このように厳しい基準を設けています。

上述したようなメーカーが定めた保証規定の穴をかいくぐって無償修理にありつけるのはごくまれな人たちだと思います。

ただし店側の対応として、「保証書のこの内容に合致していないので保証できません」と機械的に処理していくのが必ずしも正解ではないと思っています。

自転車を持ち込んだお客さんは、少なくともあなたが働いているお店で、お金を出して自転車を買ってくれている人です。

人と人とのやり取りですから、話している中で、自転車を大事に使用しているつもりで、どうしても破損した要因に身に覚えがなさそうだと判断できる相手なら、

「今回は”店として”無償で交換させていただきますが、あくまでメーカー保証ではありません。保証書の内容ではこのような記載になっていますので、次回同じような破損が見られた場合は有償修理になりますので、ご承知ください。」

ということでグレーなニュアンスを残しつつ、最初の1回だけは無償で交換してあげてはいかがでしょうか。

保証対象かどうかだけ確認されて、合致すればOK、合致しなければダメ、と言われるよりは、お客さんからの人として、店としての評価が上がり、今後とも「良いお客さん」として来店してもらえるのではないでしょうか。

もちろんまた同じくらいの期間で、同じような破損で持ってこられても次は対応できないと、保証書に記載されている内容をしっかり説明できる知識を披露できれば、あなたの店員としての株もあがり、次はご指名でご来店、ということもありえるでしょう。

つっけんどんで頭ごなしに「すぐ壊れたんだけど!保証はどうなってる!?」のように怒鳴り込んでくるようなお客さんには、保証書の内容を説明し、丁重にお断りすればいいだけです。

そういうお客さんは、店側が慌てて萎縮し、どう対応するのか迷っているとさらにたたみかけてきて、「面倒だから無償修理で片づけてしまおう・・・。」という心理状態にさせてきます。

こういう人にこそ慌てず騒がず、保証書の内容を詳しく説明して機械処理です。

なんなら保証書の記載内容をどこに書いてあるか一緒に確認するとなお効果的です。

こういうクレーム対応時に、あなたの整備や修理技術だけでなく、プロとしての知識、経験が問われます。

いざというとき、こんなクレームが来たらこう対応する、というような準備や、知識としてのお勉強も大切です。

そして相手によって、頭を切り替え、柔軟に対応できるようになると、ショップ店員としてひと皮むけることでしょう。

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